フリーランスFPのblog
万FP
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真夜中に見た真実

すすきのの夜景

 この歓楽街がまだ煌びやかだった時。ここは眠らない街と呼ばれていた。

 しかし、今となってはすすきのも立派に眠っている。

 私がまだ幼かった頃、自分の知らない真実は真夜中にあると信じていた。

 時折、大人たちが私を率いて歓楽街へと連れて行ってくれた。私はまだお酒を飲める年齢ではなかったけれど、どんちゃん騒ぎをする大人たちの様相は、眺めているだけでもこちらを楽しい気持ちにさせてくれた。

 あの時はまだ、夜でも活気があったと思う。夜道を歩けば肩を組んでへべれけな大人たちが楽しそうに次のお店へと向かい、店先には綺麗なお姉さん方が次はこちらよと酔っぱらいたちを誘い込む。ここはそんな街だった。

 きっと、大人たちは子供の知ることができない良いことをしているに違いない。僕が眠っている夜な夜な、大人たちは子供の知らない、それは大層面白いことをしているに間違いない! 早く大人になりたい! そう思っていた時期が私にもありました。

 時は過ぎて私は大学生になった。結局、幼い時以来この街とは縁がなくて、その間の変化を知らなかった。

 大人と呼べる年齢になった私は、幼い頃に抱いた感情の正体を掴むべく、夜の街で働いてみることにした。しかし、そこにあったのは、既にもぬけの殻となった歓楽街の姿だった。

「昔は、ここも眠らない街だったのにな」

「今は違うんですか」

「ほら、見てみろよ。夜に歩いている女の子なんて一人もいないじゃないか。すっかり寂れちまったんだよ、この街も」

「そう、なんですね」

「昔はよかったさ。朝四時になってもまだ人が歩いていたし、朝日が昇るまでもなく明るかった」

 幼い時、私が見たこの街の姿は虚像だったのだろうか。

 真夜中にも関わらず、街中はネオンの灯りに照らされて、太陽よりも眩しく輝いていた。

 しかし、今となってはその光も鳴りを潜めている。今この街には、大人たちの大騒ぎする声も、ケバい女性が店先でキャッチする声も聞こえない。

 私は落胆した。

 大学卒業と共に私は大手企業に就職が決まり、千葉へ行くことになった。

 千葉での生活はすぐに馴染めた。京葉線付近に住んでいたのだが、環境が札幌に近く、不便だと感じることは一切なかった。むしろ、滅多に雪が降らない分、札幌よりも快適だった。

 しかしそれも、家庭の事情が重なり、仕事を辞めざるを得ない状況になった。私は泣く泣く実家に帰る決意をした。

 久々に帰ってきた札幌。少し建物の有様に変化があるだけで、あとは以前住んでいた時と景色は何も変わっていなかった。いや、実家が引っ越していたから、ちょっとだけ変化はあったか。

 ふと、私はあの街が気になった。

 足を運んでみると、日中には外国人が闊歩して、すすきのクラブセガが閉店して跡地にはラウンドワンが建っていた。

 そうか、セガは無くなったのか。

 心の中に虚しさが去来する。我が青春のクラブセガ、と言うほど思い出の地ではない。しかし、この街を代表する若者たちの溜まり場だった。私もよくお世話になっていた。

 今そこには、ラウンドワンが聳え立っている。入り口を見ると、制服姿の高校生たちや外国人たちが和気藹々と入っていく姿が目に付く。まるで健全さを主張するような白い建物だ。

 夜を迎えても道行く人の姿はあまり増えない。週末でもまばらだ。今となっては、クリスマスなどのイベントがない限り、昔のような人込みは期待できない。それでも、昔よりは数段劣るのだろう。

 帰り際、すすきのが眠る姿を見た。電灯がほとんど消え、店は営業を止めて店先のシャッターを閉める。明かりがついているのは、朝までやっている居酒屋と妖しいビルくらいなものだ。

 街に大きな闇が覆う。

「砂漠が美しいのは、どこかに井戸を隠しているからだよ」

 かの有名な『星の王子さま』の一節。それじゃあこの闇の中にも、まだ光は隠されているのだろうか。私には到底思えない。

 駅のホームから下りて、歩いて帰途に就く。冬口の寒風が身に染みる中、コートのポケットに手を突っ込んで空を見上げた。

「なんだ、ここにあったじゃないか」

 家々を眺めると、窓から漏れ出る明かりは眩しかった。街は眠っても人は眠らない。煙突からモクモク出てくる白い煙に生活を覚えた。

 急いで家に帰ることにした。あそこには、私だけの光が待っている。

 私は玄関の扉を開けて「ただいま」と呟いた。

あとがき

 この日記はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 アイキャッチ画像はフォトック様(https://www.photock.jp/)から拝借しました。